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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)10423号 判決

原告(反訴被告)

山中運送株式会社

ほか一名

被告(反訴原告)

新井唯弘

主文

一  原告ら(反訴被告ら)の請求をいずれも棄却する。

二  原告ら(反訴被告ら)は、各自、被告(反訴原告)に対し、金一五八万九七五六円及び内金一五六万三七五六円に対する昭和五三年一一月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを二分し、その一を原告ら(反訴被告ら)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、被告(反訴原告)勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 原告らと被告との間で、原告らの被告に対する別紙目録記載の債務が存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告ら(反訴被告ら、以下単に原告らという。)は、各自、被告(反訴原告、以下単に被告という。)に対し、金三二三万九七五六円及び内金一五六万三七五六円に対する昭和五三年一一月二一日から支払ずみまで年五分の割合、内金七万一〇〇〇円に対する同五四年六月三〇日から、内金七万一〇〇〇円に対する同五五年六月三〇日から各支払ずみまで年一割四分六厘の場合、同年一〇月一二日から右内金一五六万三七五六円の支払ずみまで一日当たり二〇〇〇円の割合による各金員を支払え。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求の原因

被告は、原告らが被告に対し別紙目録記載の債務を負担している旨主張する。

そこで、原告らは被告に対し、原告らと被告との間で、右債務が存在しないことの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因事実は認める。

三  抗弁

原告らは被告に対し、次のとおり、交通事故による損害賠償債務を負つている。

1 事故の発生

昭和五三年九月五日午後五時ころ、東京都豊島区雑司ケ谷三丁目一一番三号先路上において、原告渡辺七郎運転の四トンドラツク(加害車両)が赤信号に従つて停止中の被告所有の普通乗用自動車(被告車両)に追突し、同車を破損させた。

2 責任原因

本件事故は、原告渡辺七郎の前方不注意による追突事故であり、同原告は民法七〇九条により、また、原告山中運送株式会社は、原告渡辺七郎の使用者であり、本件事故は原告渡辺七郎が原告山中運送株式会社の業務を執行するため加害車両を運転中にひき起したものであるから、民法七一五条一項本文により、いずれも本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

3 損害

被告は、本件事故により、被害車両の修理費金一五六万三七五六円相当の損害を被つた。

なお、被害車両は、メルセデスベンツオートマチツク黒色左ハンドル六人乗り普通乗用自動車であり、被告は、訴外樋口幹彦から同車を金二五〇万円で購入し、その後修理費として二百数十万円をかけていること、走行距離が八万キロメートル余にすぎず、車検を受けたばかりであること、メルセデスベンツは中古車でも時価三八〇万円以上すること、新車であれば八〇〇万円以上すること等に照らすと、被害車両の時価が右修理費を大幅に上回ることは明らかであるから、右修理費相当額が損害額となる。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1、2の事実は認める。

2 抗弁3損害については否認する。

被告車両は、昭和三九年製造の中古車であり、既に六年の減価償却ずみであること、同五〇年四月二五日東亜自動車株式会社から株式会社小池運輸に金三〇万円で売却されたことがあること等に照らすと、被害車両はほとんど無価値に等しいから、修理費相当額が損害額となるものではない。

(反訴)

一  請求の原因

1 事故の発生

本訴抗弁1記載のとおり。

2 責任原因

本訴抗弁2記載のとおり。

3 損害

被告は、本件事故により、次のとおりの損害を被つた。

(一) 被害車両の修理費

本訴抗弁3記載のとおり。

(二) 被害車両の保管料

被告は、昭和五三年九月六日株式会社ヤナセ(以下、単にヤナセという。)本社のベンツサービス部に被害車両の修理見積及び修理完了までの保管を依頼したが、原告らが修理費の負担を拒否し修理ができないため、現在まで右保管の継続を余儀なくされ、その間ヤナセから一日当たり二〇〇〇円の割合による保管料を請求されており、右同日から同五五年一〇月一一日までの保管料は金一五三万四〇〇〇円に達し、同額の損害を被つた。

(三) 被害車両の自動車税

原告らが被害車両の修理費の負担を拒否し修理ができないため、被告は、被害車両を現在まで使用することができなかつた。これにより、被告は、昭和五四年度及び同五五年度の自動車税各金七万一〇〇〇円に相当する損害を被つたものというべきである。

以上により、被告は原告らに対し、各自、前記(一)ないし(三)の合計金三二三万九七五六円及び内金一五六万三七五六円に対する不法行為後である昭和五三年一一月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合、内金七万一〇〇〇円に対する納期後である同五四年六月三〇日から、内金七万一〇〇〇円に対する同じく同五五年六月三〇日から各支払ずみまで東京都都税条例所定の年一割四分六厘の割合による各遅延損害金、同年一〇月一二日から右内金一五六万三七五六円の支払ずみまで一日当たり二〇〇〇円の割合による保管料相当損害金の各支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1 請求の原因1、2は認める。

2 同3(一)については、本訴抗弁に対する認否2記載のとおり。

3 同3(二)及び(三)は否認する。

保管料の累積や被害車両の使用不能という状態は、被告がヤナセから被害車両の引揚げを怠つているために生じたものにすぎず、本件事故により生じた損害ではない。

第三証拠〔略〕

理由

一  本訴請求の原因及び抗弁1、2(反訴請求の原因1、2)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、被害車両の修理費について判断する。

証人小田忠臣の証言並びにこれにより真正に成立したものと認められる乙第七号証の一ないし四及び第八号証によれば、ヤナセにおいて見積つた本件被害車両の修理費は金一五一万八二一〇円、右見積費用は金四万五五四六円であり、被告がヤナセに修理を依頼すれば合計金一五六万三七五六円の費用を要することが認められ、他にこれに反する証拠はない。

ところで、一般に中古車が交通事故により損傷され、修理が可能である場合は、原則としてその修理費相当額が損害額となるが、原告らは、本件被害車両はほとんど無価値に等しく損害はない旨主張し、また、当該車両の修理費と時価(中古車市場における交換価格)との比較において時価相当額をもつて損害額と認め得る場合があるので、この点について検討する。

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証及び第六号証によれば、昭和五〇年四月二五日、被害車両の当時の所有者であつた東亜自動車株式会社が株式会社小池運輸に対し、被害車両を金三〇万円で売却したことがあることが認められ、証人志賀義男の証言によれば、安田火災海上保険会社の技術アジヤスター志賀義男は、本件事故の翌翌日である昭和五三年九月七日、ヤナセの修理工場に行き、被害車両の損害の査定を行つた際、三九年式ベンツは法定償却ずみなので残存価格を新車の約一〇パーセントとみて六〇万円前後と考えたが、四一年ないし四三年式ベンツの市場価格が八五万円から一〇〇万円前後であることを加味した場合でも、被害車両の時価はせいぜい一〇〇万円であると算定したことが認められる。

しかし、他方、前掲甲第五号証及び証人樋口幹彦の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証並びに証人樋口幹彦及び同遠藤利英の各証言によれば、東亜自動車株式会社は株式会社小池運輸の自動車を修理する系列会社であつて、両社間には特殊な関係があること、被告は、昭和五二年三月頃樋口幹彦から被害車両を金二五〇万円で購入したこと、が認められる。また、証人小田忠臣の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の二、三、五、一〇、一一、一三ないし二五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同号証の二六、二七、三四及び証人遠藤利英の証言により真正に成立したものと認められる同号証の二九ないし三一並びに証人小田忠臣、同池田和宏及び同遠藤利英の各証言を総合すると、被告は、被害車両購入後、その修理整備のため合計金一七二万〇二九〇円を費やしているが、そのほとんどをベンツ等外国製高級車の輸入販売にあたつているヤナセにおいて行つていること、ベンツ専門のヤナセで修理整備を継続してきたことにより、国産車の修理工場でこれを行つた場合に比べると、被害車両の取引価格は高額になるとみられること、ベンツは一般の乗用車と異なり、中古車であつても需要があれば高価で売買されることがある特殊な自動車であること、がそれぞれ認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

そうすると、前記のように被害車両がかつて三〇万円で売買されたことがあり、また保険会社の技術アジヤスターの査定した時価が一〇〇万円以下であつたとしても、このことから直ちに本件被害車両がほとんど無価値に等しいものと認めることはできないし、また、当該車両の修理費と時価とを比較して時価相当額をもつて損害額と認め得る場合に該当するものということもできない。

以上によつて、被告は、本件事故により前記金一五六万三七五六円の修理費相当の損害を被つたものと認めることができる。

三  次に、被害車両の保管料について判断する。

証人小田忠臣及び同志賀義男の各証言によれば、本件被害車両は、事故発生の翌日である昭和五三年九月六日、被告の依頼により前記志賀義男を通してヤナセに修理費見積のため引き取られ、数日後その修理費が合計金一五六万三七五六円と見積られたこと、原告らから損害の調査及び示談交渉の委任を受けた右志賀は、被害車両の損害額を査定したうえ、一〇〇万円以内で解決しようと考え、これを被告に提示したこと、被告は当初価格三八〇万円のベンツ中古車の購入を希望していたが、同月一八日には前記修理費の支払を要求したこと、しかし、右志賀は一〇〇万円を超えることはできないとしてこれを拒絶し、示談交渉は同日決裂するに至つたこと、をそれぞれ認めることができ、他にこれに反する証拠はない。

そうすると、被告は、同年九月六日から同月一八日までの間は、被害車両の修理費見積、損害査定、示談交渉等のため、ヤナセに被害車両を保管させることを余儀なくさせられたものということができ、右期間の保管料相当額は本件事故と相当因果関係のある損害と認ることができるところ、証人小田忠臣の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証によれば、ヤナセは被告に対し同月六日以降一日当たり二〇〇〇円の割合による保管料を請求していることが認められるので、同月六日から一八日までの一三日間の保管料合計金二万六〇〇〇円に相当する額が損害額となる。

なお、同月一九日以降の被害車両の保管料については、同車を示談交渉等のためにヤナセに保管させておかなければならない理由を認めるに足りる証拠はないし、また、被害車両をヤナセにおいて修理する場合、修理期間中の保管料を要するとの主張立証もないから、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

四  被告は、昭和五四年度及び同五五年度の被害車両の自動車税相当額の損害を被つた旨主張するが、前説示のとおり昭和五三年九月一九日以降は被害車両をヤナセに保管させておかなければならない理由はなく、被告が事実上被害車両を使用することができなかつたとしても、これをもつて本件事故に伴う結果であるということはできないから、本件事故と因果関係のある損害と認めることはできない。

五  以上の次第で、原告らの請求は、理由がないからいずれも棄却することとし、被告の請求は、原告らに対し、各自、被害車両の修理費相当の金一五六万三七五六円及び昭和五三年九月六日から同月一八日までの間の保管料相当の金二万六〇〇〇円の合計金一五八万九七五六円並びに内金一五六万三七五六円に対する不法行為後である昭和五三年一一月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから正当として認容し、その余は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 北川弘治 芝田俊文 富田善範)

目録

原告山中運送株式会社に雇用されている原告渡辺七郎が昭和五三年九月五日午後五時ころ、東京都豊島区雑司ケ谷三丁目一一番三号先路上において、原告山中運送株式会社の業務を執行するため貨物自動車(練馬八八あ九七四号)を運転中に、これを被告運転の普通乗用自動車(足立三三す二一五六号)に追突させ、同車を破損させた交通事故による同車修理費金一五六万三七五六円の損害賠償債務。

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